フォンテーヌブローの森 1

まる二日、森の中を歩き回ってようやく場所を決めると、それからは来る日も来る日もスケッチを重ねている。

カミーユは言われるままにポーズを取った。その日も、二人は森の中にいた。作業に入る前、クロードはカミーユをぎゅっと抱き締める。

そのまま唇を重ね、長い口づけを交わす。クロードがカミーユを離すと、それは作業開始の合図。それから昼まで、クロードは絵以外のことは考えない。ここ数日はカミーユを座らせて、ドレスに映る木漏れ日の効果を写し取ろうとしている。

クロードは持ってきた敷物を拡げカミーユを座らせると、その前に食器の山を置いた。

「ここから皿を一枚取って、こっちの人に勧める姿勢だよ」

クロードは「こっちの人」の位置にかがんで、そちらを向くよう指示をした。地面にペタリと座り、上半身を乗り出して、皿を持った左腕をまっすぐ伸ばす。

クロードは納得すると、イーゼルの位置につき、チョークを動かし始めた。

デッサンをしながらカミーユの姿勢やドレスの具合を微妙に変更したり、自分のデッサンが気に入らずに次の紙に描き始めたり、制作スピードの速いクロードでも、色付けを始めるまでに一時間以上掛かった。

カミーユは伸ばしている左腕がすっかり痺れ、足も腰ももう限界だ。少しずつでも動かしたいが、クロードがこだわったスカートの形が変わってしまいそうでなかなか動かせない。

「カミーユ、あごはもう少し上げて」

「はい」

カミーユは返事をしたものの、顔を上げようとした瞬間にふと気が遠くなった。左手の皿は取り落してしまった。

「休憩だ」

クロードは、ようやくカミーユの疲労に気づいたらしい。ホッとして姿勢を変えようとしたカミーユはしばらく両腕をついたまま、すぐには立ち上がることもできなかった。

クロードは非常に勤勉な男で、毎日自分の決めたスケジュール通りに制作を進めていく。陽が昇れば外へ出掛けて昼まで描き、昼食を摂ると、夕方になって対象が見えなくなるまで描き続けた。

その間ポーズを取り続けるモデルにとっても、それは大変な重労働で、宿に戻るとカミーユはぐったりと疲れを感じた。一方、暗くなってからもクロードの作業は終わらない。

夜になると彼は、取り寄せておいたモード雑誌を取り出して流行の女性用ドレスを研究した。カミーユに着せた衣装に、キャンバス上で手直しを加えたり、装飾を追加したりして、自分の美観に合う最新モードを描き出すことに努めた。

それは、その絵が神話や歴史などではなく、現代の一場面を切り取ったとひと目で悟らせるための重要な作業だった。そこにこそ、彼ら新しい絵を志す者たちの目的があった。

十日もすると女性像のさまざまなパターンが仕上がった。もう男性像に取り掛かりたくてうずうずしていているクロードは、フレッドに手紙を書いた。

「田舎は素敵だよ。君も早く来たまえ」

すぐに返事が来ないと

「縦四・六メートル、横約六メートルの大作『草上の昼食』を描こうとしているんだ」

と壮大な構想を明かし、

「モデルになると約束してくれたじゃないか。約束は果たしてくれよ」

などと矢継ぎ早に手紙を書き送った。

度々(たびたび)、催促の手紙を出しながら、クロードはただぼんやりフレッドを待っていたりはしなかった。

滞在中にフォンテーヌブローの魅力が存分に感じられる風景画も描くのだと言って、また場所探しを始めた。背の高い樹々が立ち並ぶ自然の豊かさ。差し込む光の中で感じられる澄み切った空気。

それらを表現するのに、この森のどこを、どんなふうに切り取ったら最も美しいのか、クロードは再び妥協することなく探し回る。