土下座するオカダカツミ
おもむろにオカダ村長が口火を切った。
「本当に申しわけない。迷惑をかけた。叔父さんには会長から謝って許してもらえた」
「叔父は会長が謝れば収まるが、水子地蔵を建設する話が部落にないのはどういうことか?」
「それは申しわけなかった。謝ることは謝る」
ヤマダ会長は下手に出た。
「謝ってもらう前に説明をしてほしい」
そこで、もうオカダ村長が口を出す。
「そうよ、ツネオがなんで話をしてこなかったのだ」
ツネオがこの場にいないのはお前の考えではないか、そこまで出かかった。
「ツネオは相手にしていない。会長は何をやりたいのですか? 園原は伝説と史跡の里。水子地蔵をつくれば園原が変わってしまう」
「お前の言うことはわかった。お前が言うとおり、どのようにも変える。園原をもっと世に出したい、東山道を復興したいと、お前の親父と一緒にやってきたじゃないか。そこにツネオが口出しして、あいつは俺が止めても自分だけでやりすぎた」
「そうだ、ツネオはあまりに勝手にやりすぎる。だから今日のこともツネオには内緒で」
また、オカダが口を出す。しゃべりすぎる。
ヤマダ会長には言いわけが必要で、私もそれを汲みとる気持ちがある。会長の顔は立てたい。「お前の言うとおり、どのようにも変える」という言葉に私は乗るしかなかった。
「なんでも思いどおり言ってもらってはどうですか。会長さん」
また、口を出した。(お前は黙れ。うるさい!)、喉から出かかった。会長がもう一度口を開いた。
「水子地蔵は全部やめる。賽の河原に水は流さない。どうだ。あんなものは放っておけば、草が生えてわからなくなるし」
「水子地蔵は本当にやめてもらえるのですね」
「ああ。寄付を集めるために六地蔵にしたんだが、ツネオが勝手に水子地蔵にしたんだ」
そしてもう一度、「水子地蔵ではない。お前の言うとおりに直す」と繰り返す。そこでオカダカツミがとった思わぬ行動。両手をついて、深々と私に向かって土下座した。
「このとおりだ。頼む、新聞に出すことだけはやめてくれ……」
これには一同唖然とした。場の雰囲気が、緊張感で張りつめていた空気が濁りだした。
ヤマダ会長の面子を立て、腹のなかで収めなければならない。そんなことは、二人ともわかり切った腹積もり……。マサオだって、そんな真似をしてどうなるものではないとわかっている。
なりふり構わない態度は、オカダカツミの名が彫られた水子地蔵。バレて怖いのは奥さんか? ヤマダ会長が足を運んでいるのは、私が典章の息子だからである。話がつかなくともこんな真似はしない。土下座するのであれば、新聞に載ることを選ぶだろう。