右往左往する調停員
「調停員ではなく、建築設計業務の方に聞けばよろしいと思います」
「いや、ですから私たちは専門家でないし、根拠をと言われてもわからないので、専門家に相談するようにと。しかし、これから誰にどのようにするとか、そういう進め方になるけど、それを双方が了解するとか、いろいろと話し合っていかないと……」
事務的に進めていた中村弁護士は取り乱していた。
目まぐるしく展開が変わり、話すことも見透かされ、お手上げ状態であるようだ。
こちらは調停をまとめるつもりはまったくない。ここでのやり取りは焦点ではなかった。
「オカダ村長は来ていますか?」
「職員の方、参事ですか、その方がすべてわかるからと。それと顧問弁護士さんです」
「相手は払うと言う。根拠は専門家が算定する。でも、それを進めてくれない。私はどうしたらよいのですか?」
声を張りあげた。そして本題を口にした。
「阿智村長オカダカツミは官製談合という犯罪を行いました。この損害賠償の請求こそが、その犯罪の証拠です」
一瞬、静まり返った。
「オカダ村長も顧問弁護士も官製談合を認識しています。だから支払うと言ったのです」
私は調停員の前で嗚咽した。初めて人前で泣いた。この男は泣きながら何を言いだすのか? そう思ったことだろう。無理もない。損害賠償請求の調停をしているのだから。
「オカダカツミ村長とヤマガミムネオ参事、クマダツネオ議員らと、S設計、H建設が行った官製談合です」
H建設といったときの中村弁護士の顔が気になった。水子地蔵落石の件で、飯田市の弁護士相談に行ったとき、対応したのが中村弁護士であった。
そのときは「ヤマダ会長の顧問弁護士である」と、相談も何もなく追い返されている。
「あっ、あ。ここは官製談合の話は、我々は調停員だから」
しどろもどろ。官製談合を話さないと、「支払います」が理解できない。四者の犯罪関与、その起点を話した。
だが、調停員は対応できないし、困らせても進まないので、結論を伝えた。
「オカダカツミは村長を辞任せよと伝えてください。辞任すれば訴訟を取り下げます」
またもや驚いている。官製談合に続き、「村長を辞めろ」と言いだす原告は初めてだろう。女性調停員が引き継ぐ。
「そのようなお話をするために、原告は章設計の社長さんなのに熊谷さんが調停に来られたのですね」
この人の方が話が早い。