おおぎみクリニックの二十三年─ABCものがたり─

私が西原町の高台におおぎみクリニックを開設したのはバブル最盛期の一九八七年であった。小児の心身医療や漢方治療をメインにやろうと意気込んでの開設だった。クリニックは、西原町坂田ハイツの高台の急斜面に五本の巨大な杭を並列して打ち込み、それを基盤に斜面に居座る形で三階建ての建物をつくった。屋上部分を駐車場とするユニークなものだった。遠くから見ると豪奢な建物に見えるらしく開院当初、若いアベックらからよくラブホテルと間違われた。

銀行から大金を借りる際、金額が高すぎること、バス停から数百メートルも離れた高台にあるという地理条件がネックとなり銀行トップの人たちの審査に時間がかかり、部屋の一角で長く待たされた。

そこへ、部屋の奥から秘書らしき女性が本を抱えて現れ「大宜見先生ですか」と言うので「そうです」と答えると、拙著「こどもたちのカルテ」を差し出し、サインを乞うた。そのことがきっかけでトップの人たちの態度が変わり、貸し出しOKとなったのだった。

いざ開業してみると、経営は火の車だった。

理由は、バブル最盛期で金利が8.5%と極めて高率だったこと。二つ目は、バス停の通りからかけ離れた不便な高台にあったこと。そしてもう一つの理由は、不登校など心身医療をメインとした診療科目を掲げたことから予約患者は殺到したものの、普通の診療科とは違い診療に時間がかかり、経過が長く、患者の回転が悪いことだった。

それに心身医療をサポートするには心理士など多くのスタッフを要し人件費もかさんだ。開院に際して、クリニックのシンボルマークを図案化し、熱い思いを込めてABCの文字をロゴマークとして採用した。

Aはアドベンチャー(Adventure:冒険)、Bはブリリアンシー(Brilliancy:きらめき・ひらめき)、Cはキュリオシティー(Curiosity:好奇心)で自分の心情を吐露したものだった。冒険・ひらめき・好奇心。この三者に共通するものが「わくわく感」だった。

おおぎみクリニックのロゴマーク

しかし、いざ開業すると現実は厳しく、ロゴマークのABCは勢いを失い、赤字・貧乏・クリニックのA・B・Cになりかねなくなった。

開設前、クリニック構想について商学部教授をしている旧友に相談したところ、冗談めかしに「それは止めた方がいい……。アホ・バカ・クレージーのABCになっちまうぞ!」と言われたことが頭をかすめた。