第一章 小児科外来点描

「あっ、仮面ライダーだ!」

診察室での幼児とのやりとりは、小児科医にとって楽しみのひとつだ。診察室に入るなり、胸部レントゲン写真を見て、

「あっ、仮面ライダーだ!」

と金切り声をあげる子がいる。診察室に入るや否や、

「注射するな!」

と一喝する子もいる。ベソをかきながら診察室に入り、

「ボク、泣かない」

と自分に言い聞かせる子もいれば、受付と間違えて、千円札を渡そうとする子もいる。口を開けさせると、ベロが盛り上がり、のどの奥が見えない。舌をべーと出させると、今度は口が閉じてしまう。

からかい半分に気をつけの号令をかけると、下半身はピシャリと決まるが、上半身はぐらぐら揺らいでいる。頭に赤いリボンをのせたおしゃまな女の子が、さようならのお辞儀をしたら、スカートの下から、おむつがのぞいていた。幼児と交わす会話も楽しい。

「どんな咳? コンコンしてごらん」

言葉どおりに

「コンコン」

別の子に

「どんな咳?」

と聞いたら、

「一番」

と答えた。咳を幼稚園の席の順番と間違えたらしい。

「リンダね、足痛いの……」

「えっ、どこの足?」

父親曰く

「この子、ぬいぐるみ人形の話をしているんです」

両腕にプロミスリングをつけた五歳の女の子が父親に連れられてきた。

「これ何なの?」

「お願いするの」

「どんなお願い?」

「早く妹が生まれますように……」

「じゃ、お父さんにもお願いしなくてはね」

「ウン」

父親、うしろでしきりに頭をかいている。