第二章 道徳と神の存在
いつになく勉が朗々としゃべった後、茂津が口を開いた。
「さっきは、神の存在を全く否定したけどさ、正直なところ、よく分からないところもというか、不可解なことも確かにあると思わざるを得ないこともある。しかし、やっぱり俺が思うには、科学で説明できないような事象は、何かの偶然の積み重ねというか、偶然の相乗効果でしかないように思ったりするんだよ。
別当も同じようなことを言ったけど、神はその人に耐えられないような困難や不運を与えないとかかんとか、言うことがあるだろ。これは美辞麗句をもって表現した、実に巧みな言い方だぜ。
神は存在するが、神は人間がどんな苦しい時でも、嘆き悲しんでいる時でも、いつもただただ沈黙しているだけと言ってることと同じじゃないのか。
善良な人間が耐えられないような苦しみの中にある時にも、神が沈黙しているということは、神というもの自体が存在しないということじゃないのか。もし、神が存在するとしたら、善良な人が苦しみ嘆き悲しんでいる時に、なぜ、神は何もしないでいつもただ沈黙しているだけなのか、その答えがあるのかどうか、これは難しいと思うぜ。
別当が言うのは、神というものの存在を否定することも、肯定することも難しいけど、人間の能力をはるかに超越した、さまざまな自然の営みなどを前にして、眼には見えない何かの大きな存在、それを神と言うべきかどうかは別として、その大きな存在を感じ、それを畏怖すべきだし、人間として驕らず、過信せず、謙虚であるべきということだと思う。
それと、神がいるとしても、その神が人間に幸運や不運を与えるわけではないと言ったけど、確かに、これは興味深い考え方だと思うよ。
そうするとだよ、何度もしつこく言うようだけど、もし神が存在するとしても、どんな時もいつも、ただただ沈黙しているだけの神とはいったい何なんだい? 俺もこれは益々分からなくなるよ。しかし、別当、大して良くもない頭で、いろいろとよく考えたもんだな。お前の言おうとしたことは、理解できないことはないよ」