天文学的な印税を目指して!
「コペルニクス? 天文学者の?」
「コピリニクスだよ、俺の造語。久しぶりに六弦を啼かせてみないか?」
スマートフォンを耳に当てた海堂は実に活き活きとしていた。
「音楽か……、たしかにやりたいけど、カイちゃんが描くように上手く行くかなぁ?」
「成否よりもまずは企画を楽しまないか? 他人のふんどしっていうのが気がかりだけど、このアクションは絶対に必要だと思う」
かいつまんで説明すると、海堂は1枚のセレクションCDを作成しようと目論んでいる。
しかし、既存の楽曲をそのまま収録しようと試みても莫大な著作権料が……。
そこで彼は、歌唱も演奏も素人を募ってやってしまおうと考えた。
それが俗に言う、「コピリニクス」というわけだ。
発想は悪くないと思う、前例もあまり聞いたことが無い。しかし、仮に完成したとしても、果たして売れる商品になるだろうか?
経済力の向上は願ってもない好条件だ。しかし、それ以上に、彼は「今」を楽しむ目標が欲しかった。
日々輝海堂、「コピリニクス」遂行の為、四つ葉館【AFLC】を一時退去。
青でも蒼でもない、碧
紀行の正しい読み方は【きこう】。彼の父親の独特なこだわりで、堅く音読みで3文字にまとめた。
海堂はそこに居なくなったが、四つ葉館では普段と変わらない時間が流れていた。
ところが、である。
海堂の想い人、矢咲奈津子【やざきなつこ】が四つ葉館を訪ねてきた。
光沢のある美しい茶髪、白百合を思い起こすブラウスと紺碧の長スカート。
「そう……海堂くんは地元に戻ってるんだ」
「海堂さん、今でも変わらず奈津子さんのこと、想っていますよ」
巡波がアイスコーヒーをそっと差し出す。
「そっか、嬉しいな。間が悪かった、出直します。彼に来たことは伝えないで。今、頑張っていることに集中して欲しいから」
「わかりました。今のお住まいを伺ってもいいですか?」
「うーん、やめておくわ。私たちには、集う場所があるじゃない。いつになっても温かい、この家が」
玄関まで見送りに出る巡波。奈津子のスカートが揺れている。
「奈津子さんが選ぶのって、碧なんですよね。青でも蒼でもない、碧」
「夢中になると視野が狭くなる、悪癖ね」
そういうと彼女は踵を返し、スカート同様にトレードマークのやさしい微笑みを讃えながら、一歩ずつ歩き出した。