ビューティーアドバイザーBENIYA

「ベニヤさんって、いうなれば美のカリスマですよね!」

紅弥にチークを施してもらいながら、うっとりと鏡を見つめる優美。

最近、何かと登場回数が多い、くだんの美のカリスマさんは、「お持ち帰りできないピアノ弾き」でお馴染みのジュリアこと、鴻峯珠莉唖との「死闘」ならぬ「酒闘」を制したばかり。

ネクスト・バトル・ステージは化粧部屋と銘打った個室。巡波のビューティーアドバイザーとして、その手腕を発揮していた。

巡波は、例のポスター撮影を、四つ葉館【AFLC】の空き部屋を機能的に活用しながら、ことに及ぶ。

部屋だけに飽き足らず、人員も総動員したい巡波は、カメラを原田紀行くんに持たせて、「綺麗に撮ってあげて下さいね」優しく重圧をかけるのであった。

紀行にカメラマンという大役を一任した経緯をざっくり記すと、以前、巡波は、彼にフォトアルバムを見せてもらったことがあった。

実家の自室に飾られている、フィギュアたちのスナップだ。

そこには紀行の造型物に対する、真摯な愛情が確かに映り込んでいた。(彼は、被写体を美しく切り取る繊細な感性がある!)

その読みは見事に的中! モデルの気持ちを盛り上げる合いの手の入れ方はぎこちなかったが、撮影に来てくれた、升水優美【ますみずゆうみ】ちゃんのあどけない表情に段々と艶っぽさが出てきて、レンズを見据える目に大人びた魅力を感じることさえできた。(次回のわたしのポスター撮影は、紀行くんにお願いしてみよう)

「え? 一部が3円なんですか? 100枚刷ったら、ええと……」

「300円。最初はそれくらいからスタートするのがオススメだよ。何枚か直筆サインして帰る?」

「はい! じゃあ、30部にしようかな?」

優美ちゃんは、若い子にしては実にしっかりしていて、事前に自分のサインを考案しているに留まらず

「何枚書いても疲れない工夫があるんですよ」

脱力して、さらさらっと書き上げるその所作は、卓上の創作ダンスを見ているかのような光景だった。

残り70部は印刷が済み次第、追ってご自宅までお届することを約束して、未来ある県内JKの一人とお別れ。

表向きはポスターの発行部数だけの料金っぽく謳ってしまったが、カラープリンタの減価償却費や、メイクさん、カメラマンさんへの人件費も捻出しなければならない。

もっとも、わたしを除くスタッフ2名は、屋根があり、温かみのあるこの館に安価で住まうことができるだけで充分!……というのは、暴論であり、ご都合主義かな?

プライベートグラビア第1号 升水優美ちゃん。彼女の艶っぽさに心奪われる殿方は一体何十、何百人?

いきなり地元で大宣伝したらクラスメイトがびっくりするから、県内でも、自分と生活圏が異なる地域への折込を希望。

「その気持ち、わかるよ」

海堂さんは、一流のコンシェルジュになる!という志がある傍ら、自分の音楽の知識や技術を投じる夢も追い駆けている。

わたしも、今は県内の女の子たちの架け橋になる様な事業を立ちあげたばかりだけど、やはりスポットライトは自分に向けられるべき!という気概を持って生きている。

「その気持ち、わかるよ」

でも、いつか、自分の生活圏にもポスターを折り込んでみてね。あなたが一番になりたいんだったら、それなりの覚悟を示さなきゃ!

巡波は、もう一人の自分を見るように、心の中で優美の成功を祈る。