勇敢な公女のすがたに、胸が熱くなった。イルゴ村の輪が中央に来たところで、いっせいに目線が送られてきた。

「ミラン、今よ」

帯にはさんでおいた花束を持ち、あたしは桟敷(さじき)の下まですすみ出た。ひざをつき、うやうやしくお辞儀をして、高く花をささげた。ウルトの役人から、公女のとなりに座っているキジル人にわたった贈り物は、たしかにダリヤ姫の手の中におさまった。

彼女の手首には、王家の紋章の入った腕輪があった。キジルから贈られたという王族の証しだ。月の形にはめこまれた宝石と渦巻きの模様が、にこりともしない姫ぎみの代わりにかがやいていた。

さあ今、広場はあたしたちのもの! 掛け声、指笛。みんなが手をたたき、足を踏み鳴らす。音の波と熱気で内庭がゆれている。

お城の壁はきっと、びっくりしているわ。身をひるがえすと、黄色の紐がクルクルまわりながらついてくる。まるで、星が飛んでいるように見えるじゃない?どんなもんよ。

こんな晴れ舞台の日があるなんて。幸あれ、ダリヤ。あんたの西進を踊りで寿(ことほ)げてうれしいわ。この踊り子たちはウルトがささげる、もうひとつの花束なんだから。その大演舞の輪が急にゆがんできた。拍子がとれなくなったのだ。ずいぶん雑な太鼓を打つもんだわ。だれもが、そう思っていた。

「どこの楽師の音よ、踊りにくいったら」

とうとう踊りがくずれてしまい、あたしたちがムッとして止まるのと同時に音楽も止んだ。そこでやっと、聞こえていたのがヘタクソな太鼓などではなく、門の扉が激しくたたかれている音だと気づいた。

何これ? けむりが上がっていた。焦げた串焼き肉みたいな臭いと一緒に、どなり声がひびいてくる。

それでも、はじめは酔っぱらいが大勢でケンカをはじめたくらいにしか思っていなかった。すると、コン。輪の真ん中に松明(たいまつ)が落ちた。

尾を引いた火花が石敷きの上で跳ね、踊り子たちはあっという間に散り散りになった。百人の娘の悲鳴を合図に、城壁の垂れ布に炎が走り、稲妻が刺さったように広場が明るくなった。あちこちでいっぺんに火の手が上がった。