第1章 公女の西進
さあ、どうやってここを突破してやろうかしら。そう考えていると、背中をムギュッとつかまれた。マワーラのとこのチビがひっついていた。
「あんた、どうしたのよ、みんなとはぐれたの?」
チビは真っ赤になったほっぺたをふくらませてうったえた。
「入れてもらえなかったんだ、枝村の者は踊り手と楽師しか入れないって」
「じゃあ、あんただけここに置いてきぼりにされたの?」
「一緒に入れてよ、ミラン姉ちゃん。王さまの家が見たいんだ。こんなこと、もうないよ」
目じりに泣いたあとがくっきり残っている。
「そうね、あんたにとっても一生に一日の機会なのね」
あたしは火照った頬を手のひらでつつんだ。
「チビ、いい作戦があるの。手を貸してちょうだい」
「姉ちゃん、姉ちゃん、あっちの西側の扉が開くらしいヨオ」
「アラー、そうなのお、西側の扉があ! じゃあ、いそいで父さんに知らせなきゃ」
大声でしゃべっていると、すぐにとなりにいたおじさんが話しかけてきた。
「どっちの扉が開くって?」
「西側よ」
「おい、西の扉が開くらしいぞ」
「西門だってよ」
伝言は、またたく間に広まった。
「いそいで、いそいで! みなさん、あっちですよ」
人波がぐんと引いた。閂をくぐろうとすると、棒を持った役人に腕をつかまれた。
「こら、勝手に入るな」
男の手からは、酒の臭いがした。