「ここまでに扉は二つあったわね。なんにもないじゃない」

壁ではさまれた暗がりがあるだけだ。

「ミラン姉ちゃん、あれ!」

物見台になっているまるい出っぱりの陰に、こっそりと小さな扉があった。たたくと、古ぼけた布をまとった老人が顔を出した。

「なんだ? お前は」

「イルゴの村の者よ。大演舞に出るの、中に入れて」

「ここは僧院の倉庫だ。ほかの入り口にゆけ」

なんだかこいつも酒臭いな。

「入れないのよ」

「そんなことは知らん。僧院の荷物以外のものがここを通るわけには行かぬ」

「どうしても宴に出たいの。僧侶ならたすけてよ」

「わきまえのない子どもだな。『僧堂の前では王とてつつしめ』という言葉を知らんのか」

「『神前の舞い人は王より貴し』って言うじゃない。イルゴの踊り子が演舞の中心になるのよ、あたしがいないとイルゴはまとまらないわ。そしたら大演舞が失敗になるのよ」

ウチの村が中心なんていうのは、まったくのでまかせだけど、怒りとイライラが手伝って、押しまくった。

「このちっこいやつはなんだ?」

「この子は歌い手なの。特別な声を持った子よ、そのへんの女が逃げだすくらい美しい声を出すの、この子も必要なの」

でまかせついでにもうひとつ盛った。

「ショボい踊りなんかしてごらんなさい、それで宴が失敗になったら、ウルトはこのあと三代は笑い者になるのよ。あんた、責任とれるの? それだけじゃないわ、ダリヤ姫ではなく大キジルに礼を欠くことになるわよ!」