「イルゴ村の踊り子よ」
「ダメだ、演者は村ごとにまとまって入る決まりだ」
「事情があって遅れたの」
「そんなことを、いちいち聞いていられるか」
そう言った役人の手に何かをにぎらせて、数人の男がすり抜けて行った。この役人ったら、袖の下をわたした者は通してやってる。
「あんなズルしていいの? あたしは踊りたいだけよ、入れて、お願い!」
「ダメだ!」
つき飛ばされて地面にころがったあたしは、砂をかぶりながらさけんだ。
「ダリヤのために踊りたいの、ダリヤを応援したいのよ!」
ああ、どうすればいいの? 大演舞がはじまっちゃう。
―右の壁づたいにゆきなさい。
突然、うしろから声がした。
―扉を抜けるのだ。二つ目半の扉を。
低い男の声だった。振り返っても、声の主はわからなかった。
―よいか、二つ目半の扉だよ。
声だけが、ていねいに念を押してくれた。チビの手を引いて、あたしはひたすら壁に沿って走った。今の声の言うことを聞いてみるしかない。南村の荷車も通り越し、人影が尽きた先で、どんつきにぶつかった。内城と外城をつないで石の壁がそびえている。大路はそこでおわっていた。