とべたよ
王子様はびっくりして首をふりました。
「あなたに助けていただいた青虫です。今はすてきな羽を神様からいただいたので、どこへでも飛んでゆくことができます」
王子様はすっかり感心してアゲハチョウを見つめました。
「君はすごいね。空を飛べるんだね。ぼくには決してできないことだ」
アゲハチョウは王子様に言いました。
「王子様。わたしを助けてくださってありがとうございます。あの日から、いつかはあなたのお役に立ちたいと願ってきました。なんでもわたしに用事を言いつけてください。わたしはあなたのおそばから決してはなれません」
その言葉通りアゲハチョウはいつも王子様のそばをはなれませんでした。王子様の行くところにはどこへでもついてゆき、王子様が眠るときはそっとおりてきて、王子様の傍らに羽をやすめました。
雨の日だけは別です。王子様は雨が大好きですがアゲハチョウはそうではありません。王子様は雨にぬれながらごきげんでいくつもいくつも好きな歌を歌いますが、アゲハチョウはあわてて木の葉のかげにかくれます。そして雨がやむまでじっとしています。
ある日も雨がふってきました。王子様はごきげんでいつものように次から次へと好きな歌を歌いました。アゲハチョウはあわててカラタチの茂みにかくれました。雨のやむのをまっているうちに、すっかり眠ってしまいました。
雨がやみました。アゲハチョウはまだ眠ったままでした。美しい虹がでました。王子様はひとりうっとりとそれを見つめていました。そのときです。王子様はそばで何者かがじっと自分を見つめているのに気がつきました。
目をやると、小さな、それはそれは小さな生まれたばかりのカタツムリの赤ちゃんでした。王子様にとってははじめて見る生き物でした。
「君はだれ? どこから来たの?」
カタツムリは何もこたえません。自分がどこから来たか知らなかったからです。気がついたときは、やつでの葉先から雨粒と一緒にすべり落ちていました。
そしてすぐに王子様を見つけたのです。それで王子様の歌を聞きながらただただじっとしていました。
そこへアゲハチョウがあわてて飛んできました。カタツムリを見て、びっくりしたようでした。しかしすぐにとてもうれしそうにしました。本当にかわいいカタツムリでしたから。
その日からアゲハチョウだけでなくどこへゆくにも王子様のあとをカタツムリがついてゆくようになりました。もちろんカタツムリは少ししか歩けません。足の速い王子様についてゆくことなどできないことでした。