とべたよ

春が来ました。花の香りと小鳥の声で目を覚ました王様とお后様は早速池にやってきました。オタマジャクシの王子様はいっそう強そうになって元気に池を泳ぎまわっていました。

メダカたちはもう王子様をこわがっていません。すっかりお友達になっていました。追いかけっこをしたり、かくれんぼをしたり楽しく過ごしていました。やがて王子様のしっぽが取れる日がきました。

そしてつやつやとエメラルド色に光った素敵なカエルの若者になりました。王様もお后様も大喜びです。次は王子様の旅立つ日を今か今かと待つようになりました。

昔は王様もお后様もそうでした。生まれた場所を離れ、いくつもの野原や林を旅しました。そのようにしてたくさんのことを学び強くてかしこいカエルになりました。

そして互いに出会い、結婚し、大谷家の庭に宮殿を作ってこどもたちを育てるようになりました。一番最初に産んだ王子様や王女様を送り出してからあっというまに長い月日がたちました。

お二人はいつでも子どもたちが元気よくたくさんの林や野原や川をわたって楽しい旅を続けている姿を思い浮かべました。どこかで好きなカエルとあい、自分の子どもたちを育てているに違いないとも思いました。

その子どももやがて大きくなって、結婚しまたたくさんの子どもをもっていることでしょう。今は考えただけでも気の遠くなるような数になってこの同じ空の下でみんな元気にとんだり、はねたりして生きているに違いないのです。

そう考えるといつでも幸せな気持になりました。ところがこの最後の最後に生まれた末っ子の王子様だけはのんびりとかまえていていつまでも旅立つ様子をみせませんでした。大谷夫人の広い庭の様子が珍しいらしくあちこちはねまわって過ごしておりました。