忘れられて
楽しげに舞っていた子が一夜高熱に苦しんだ後、突然旅先で息絶えました。それは二親にとって胸の張り裂けるできごとでした。まず、姫君が後を追うように亡くなったのです。それから、楽士もしばらく生きていましたが、やはり、後を追うように亡くなりました。
わたしひとりになりました。もはやわたしを知る人も、わたしを手に取る人もいなくなったのです。わたしは、人々から見たらただの古びた一面の琴にすぎませんでした。楽士の残した荷物の中からわたしを見つけた商人が、それを別の商人に売り渡しました。それからも、わたしは人の手から別の人の手へと何度も渡りました。
そして、ある日、船に乗せられ、見知らぬ異国にやってきました。わたしを手に入れた商人は、珍しい異国の楽器としてしばらく奥の部屋に飾っていましたが、その人が亡くなってしまうと、いきなり何も知らない男たちがやってきて、他のがらくたと一緒にわたしを大きな蔵に放り込みました。
それ以来、わたしはもう何百年も暗闇の中でうずくまったまま、うとうと眠ったり、起きたりして過ごしています。わたしは、まだ生きているし、歌うこともできるのです。しかし、わたしがどんなに美しい声で歌えるか、誰も知りません。手に取る人もいないのですから。