かつて、青の国から東方の王に嫁いだ王女がいた。国はとっくに消えていたが、キジル王は何度も人を送ってその末裔をさがし、ついにある村で一人の娘を見つけた。
彼女は古キジル王家の血を引く者として、妃にむかえられることになった。奇跡の花嫁に与えられた名はダリヤ。青き河という意味だ。
ダリヤを乗せた輿は、はるか西の本国をめざして行進をはじめた。道中の領主や王は盛大にその一行をむかえた。大国へのへつらいもあったが、公女の立ち寄る城にもたらされる経済効果は絶大だった。
まず隊商がゾロゾロと道を折って押し寄せた。公女やキジル王への贈り物を献上するついでに、商談がはじまる。
流浪の策士である智巧流人が策を売りこんでまわり、職人、幻師、遊楽団、フリーの武人や盗っ人、学者や布教僧までもがやって来る。
そのうちに、どこの王がどれだけ豪華でインパクトのある歓迎を行ったかが競われるようになり、ダリヤの西進は天下の一大イベントになっていた。
そうして彼女は、すべての娘のあこがれになった。
青の王家の姫ぎみ、ダリヤ。その公女の輿が先日、ここウルトに入った。城主は、領内の村々から踊り子の娘を呼びあつめた。公女を歓迎するための大演舞が行われるのだ。
あたしが住んでいるのは、ウルトのイルゴ村。ウルトのオアシスの中で、ウチの村だけが村名を持っている。むかし、この僻村の出ながら、ウルト王に重用された伝説の長の名だ。
そのころ、まだウルトは野暮ったい小国だった。イルゴは各地の古老をたずね歩き、隊商の話をあつめ、途方もない年月をかけて地勢を調べ、新しい水路を引く計画を立てた。
そしてウルト王に会うために、一計をめぐらせた。王女の婚礼衣裳の箱にひそんで、王宮へと入ったのだ。