相性の悪い上司には「陰ぼめ」と「曖昧ぼめ」を

相性の悪い上司を「陰でほめる」ことは簡単ではありません。課題はふたつあります。

ひとつ目は、「どこをほめるべきか」です。先ほどの実例のような「ピンポイント」が見つかれば、苦労はしません。強引に見つけたとしても、相性が悪いのですから、どこか取ってつけたようで、見え見えとなってしまいます。そこで参考になるのが、心理学者である渋谷昌三氏が提案する、「曖昧ぼめ」です。

「『人間は完結してしまった効果よりは、未完了、未解決のことのほうに強く心を惹かれる』これは、《ゼイガルニク効果》という人間心理の特徴です。わかりやすくいえば、『必ずしも結論を説明しなくてもいい』ということです。

『結論はいわずに、もっと曖昧な表現のほうが、相手の心を惹きつける』のです。つまり、『思わせぶり』のままで十分、というわけです。〈中略〉『具体的に何か指摘してほめなければならない』という考えを捨て、もっと曖昧な表現でほめる方法をおすすめします。

たとえば、『あなたっていいなあ』といったほめ方です。相手が『私のどんなとこがいいの』と聞いてきたら、『いや、なんとなく。あなたと一緒にいると、なんとなくいいなあ』と。そのほうが相手の心を引き寄せます。〈中略〉ほめ方のひとつのテクニックとして、この『曖昧ぼめ』という話し方は覚えておいてください。使い勝手のいい方法です」(『人の2倍ほめる本』渋谷昌著、新講社ワイド新書、26頁、28頁)

この方法でしたら、何となくできそうですね。上司のタイプを見極めて、そのタイプが「どことなくいい」とか「何となくいい」という観点から、ほめ言葉を考えてみる価値はあるのではないでしょうか。

ふたつ目は、「誰経由でほめるか」ということです。第三者探しは、もっと大変な作業かもしれません。「上司の上司」や「上司の同僚」と、ざっくばらんに話のできる人脈があれば、選択肢のひとつになるでしょう。しかし、実行するには、少しハードルが高いかもしれません。そこで、最も可能性のあるのが、身近にいる「気心知れた同僚」です。社内の人間であれば、同じ部署でなくても問題はありません。大切なのは、本音で「曖昧に」ほめ伝えることができる相手だということです。

一緒に食事でもした時に、さりげなく「陰」で「曖昧ぼめ」をしてみてはいかがでしょう。その際に肝心なのは、自分自身が本当にそう感じていないと、相手の腹に落ちないということです。口からでまかせや思いつきは、やはり相手に見透かされてしまいます。とにかく、何でもいいから、上司に関して「心底、いいと思える」部分にスポットライトを当てる必要があります。

同僚経由ということで、本当に効果が表れるかは未知数です。また、仮に効果が出るとしても、時間がかなりかかることは、容易に想像できます。従って、過度な期待はできません。それでも、何もせずに日々悶々と過ごすよりは、はるかにましでしょう。

一般論ではありますが、実に多くの会社員が、この「反対」をやっています。自分もそうでしたが、仲のいい同僚と飲みに行った時などは、気に食わない上司の悪口ばかりを言っていた記憶があります。これでは、意味がありませんね。完全なる逆効果です。場合によっては、ストレス発散にもなるので、一概に否定はできませんが、たまには戦略的な「ほめ対策」を講じてみても良いのではないかと思います(自らの反省も込めて)。