総里程万二千余里、帯方郡を出発して狗邪韓国まで七千里、そこから海を渡って対海国(対馬)へ千里、また一大国(壱岐)へ千里、末盧国へ千里。ここまでが従来の解釈によると一万里。陸路に移って五百里で伊都国、さらに東に百里行くと不彌国に到達する。女王国はもう目の前だ。

刑事がその意地と執念で、犯人(目的地)をアジトの手前まで追いつめていながら、いざ踏み込もうとしてドアに手をかけた瞬間、さあお逃げなさいと言わんばかりに解き放ってしまう。

従前の読解法に従うと、そこから「水行十日陸行一月」の先に、やっと「邪馬台国」に辿り着くという。今回、推理小説の名手をして迷路に陥らしめた「水行十日陸行一月」。

その推理過程に清張の悪戦苦闘ぶりが窺えるが、結局試行錯誤の末、登場人物の浜中浩三と同行の支援者を探索途中の事故死にしたのは、邪馬台国の所在を永遠の謎とする暗喩ではないかと思った。

ただ、当時の歴史学会、とりわけ日本古代史の分野においては、従来からの直線式読法か、伊都国以降の放射線型読法(榎一雄説)が一般的で、その殻を破る術がまだ登場していなかったためであろう。

「水行十日陸行一月」に関しては、倭人伝二〇〇〇字にとらわれず、『魏志』の東夷伝全体の構成、とりわけ『倭人伝』直前の『韓伝』に謎を解く鍵が隠されているようだ。