朝八時、鬼塚集合。六隊に分かれて捜索が始まった。サクラがいなくなって、十三日が過ぎようとしていた。山の天気は変わりやすい。朝早く出て昼過ぎには下山するのが常道。良典たちは、もうなじみとなってしまった渋国村のコンビニで昼を買い、そして、また鬼塚からきつね温泉跡に向かう舗装された短い道を四人で歩いた。

この二週間近く、何人かの個人捜索者にも出逢っていた。捜索隊には入らないが、山が好き、武蔵山脈が好き、縛られることなく、気が向いたら山に登りながら捜索してみる。年配の者に多いが、捜索している時、何度も見かけた人が何人かいた。息子達も、捜索しながら行き合った人たちがいた、と話していた。どれほどの人がサクラの捜索にかかわったのだろう。

そして、その日の一斉捜索でも何一つ、みつからなかった。

帽子一つ、サングラス一つ、ストック一つ、ハンカチ一つ、メガネ一つ、みつからなかった。次々帰ってくる捜索隊の中、若い女性が、ポツンとつぶやいた。

「何もみつからないなんて、神隠しにあったみたいですね」

そう、神隠し。一人の人間が何の痕跡も残さず、消えるなんてことがあるのだろうか。

良典は、気持ちにきりをつけるため、納得させるためにも、もう一度溝原朗子に、同行を頼んだ。今度はサクラの行くはずだった登山計画のコース「毘紐天→火口→青田岳→虎岳→追分→きつね温泉跡→鬼塚→毘紐天」を制覇するため、まず火口前のレストハウスから出発して、鬼塚に戻ってくるコースを選んだ。最初の捜索の日には、三メートルもの木々があったのに、すでに登山道は整備され、木々が切り倒されて見通しが良くなっていた。それが一斉捜索のあった日から二日後火曜日。サクラが山に入ってまるまる二週間後だった。その日も朗子を含めて四人、同行してくれた。