そして、その夜、妻・明純と今後の話し合いをした。ずっと仕事を休んでいる二人。しかし、どこかで区切りをつけなければ生きてゆけない。生活の事は息子のヒョウゴもイオリも心配している。明純もまだ、あきらめない、生きていると信じる、と言いつつも、お互い休みの日に捜し続けること、仕事をしながら生活しながら捜し続けることで一致した。
良典は翌週の月曜日から仕事を始めると決めた。その前にもう一度、別なコースで、次の日曜日に溝原朗子に再度同行を依頼した。
明純は、土日祝関係ないシフト制なので、会社と相談して木曜日から働くことにした。たまたま金曜日がシフト休なので、まずリハビリがてら一日。そして、その日、最初に会社に時間を取ってもらい、休んだ謝罪と共に今の状態を説明する、と連絡していた。無事木曜日に仕事を終え、金曜日に体を休めて、明純は土日月仕事だそうだ。
明純が早番で帰った土曜、良典が登山する前日、良典の携帯が鳴った。
「迷った人が、息子さんをみつけました。残念な結果でしたが……」
良典と明純の止まっていた時計が動き出した。
※本記事は、2020年12月刊行の書籍『駒草 ―コマクサ―』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。
人物紹介
岬 良典(みさき りょうすけ)……六十六歳
岬 明純(あすみ)……良典の妻 還暦
岬 兵庫助(ひょうごのすけ)……良典・明純の長男 東京都在住 プログラマー 愛称・ヒョウゴ(尾張藩師範・柳生兵庫助・柳生宗矩の兄の息子の名より)
岬 瑠布乃(るうの)……兵庫助の妻
岬 蒼輔(そうすけ)……兵庫助の長男
岬 霞音(かおん)……兵庫助の長女
岬 伊織(いおり)……良典・明純の次男 千葉県在住 医師 愛称・イオリ(宮本武蔵の養子・宮本(三好)伊織より)
岬 晶那(しょうな)……伊織の妻
岬 累矢(るいや)……伊織の長男
岬 那瀬(なせ)……伊織の長女
岬 索良之介(さくらのすけ)……良典・明純の三男 神宮県在住 看護師 二十七歳 愛称・サクラ
岬 リョウ子……良典の母・十五年前に九十三歳で亡くなる
沢井 幸三(さわい こうぞう)……明純の父 八十七歳 重度の認知症
沢井 冬子……明純の母 八十五歳 老々介護をしている
沢井 一道(かずみち)……明純の弟 東京都在住 五十五歳