沢井冬子は信じて待っている
斎場に着くと、ちょうど同じ時間にヒョウゴとイオリが、明純の車で来たところだった。
斎場では、すでに火葬者の名前が並んでいた。そこに孫「岬索良之介」の名前もあった。
葬儀社の担当の女性が挨拶しに来た。後で明純に聞くとその時だけの担当だったのか、後にも先にもその時一度きりしか、その女性には会ってないそうだった。
サクラの棺は白い布張りで、鳳凰の刺繍があしらってあった。明純は死に装束も鳳凰にしたと言っていた。
しかし、着せることができないので、体の上にかけているだけ。顔は白い布がかかっていて見えない、と聞いていた。
それでも、その白い布がかかっている姿だけでも見たかった。
サクラに会いたかった。
「開けて、中を見せてください」
明純が言うと、その担当の女性は顔色を変えた。
「見せられません」
「母も息子達も、布がかかっているのも見てないんです」
「ダメです。絶対に、見せられません!」
女性の勢いに、誰も何も言えなかった。なぜ身内なのに、せめて布がかかっていても、顔の部分だけでも見せてもらえないのか。この箱にサクラが入っていると、入っているとどうやって納得したらいいのだ。
サクラはその姿の片りんを家族にすら見せることなく、火葬炉に入れられてしまった。
冬子は突然サクラの言葉が頭をよぎった。サクラが行方不明になる約一か月前、夫・幸三と冬子と、サクラの車で杜都市内の成田山に行った。その時、車に入って来た小さな虫を冬子はつい、ぷちとつぶそうとした。
「おばあちゃん、小さな虫にも命があるんだよ。逃がしてあげなよ」