私は泣いていない。理屈で理解していても、感情では納得していない。私はもう一生、大丈夫にもならないし、落ち着くこともないだろう。

二〇一八年六月二十六日 三男 サクラ 武蔵山脈虎岳登山より帰宅せず。

サクラは谷底から青い空を眺めていた。さっきまで、三メートルものイタドリに囲まれ方向を見失っていた。そのイタドリの先が明るく広がっているようだ。そこまで行けば、向かう方向が見えるに違いない。

その先から覚えていない。サクラはしばし気を失ったようだった。いや、今自分は切り立った崖の下にいる。四十メートルもあろうか。その崖の一番上は突き出ていて、さっきまでの、あのイタドリが生い茂っている。何が……。

サクラは足元に目を落とした。そこには、もう一人のサクラが転がっていた。