【前回の記事を読む】「本当のことしか言ってないよ~!」全く売れてないひよっ子タレントでも、有名女優と仲良くなれた“相手を上手に褒める”方法
9.友だちを殺してまで
話が逸れた。私たちは2時間、棚から棚へと移動しながら話した。彼女が好きな作家を私は全部読んでいたから、話が途切れることがない。準備というのはこういう時に効く。そこから本をお勧めし合ったりして、それは2つの意味で有意義な時間を過ごせた。
サークルのカスみたいな打ち上げや過去問がある大学の授業を受けている時と比べれば、いくらか生産的であるし、早い段階で亀島と再びコンタクトを取れたことは大きい。1度目のインパクトが大きいうちに、2度目の大きなインパクトを与える。鉄は熱いうちに打てとは正にこのこと。
その後、近くのカフェに流れた。
そこで初めて、亀島は少し本音に近いところを話した。
彼女は田舎の出身だった。通っていた最寄りの高校は分校扱い。上京する時は地域の人間が皆集まって送り出してくれたそうだ。都会で育ち続けた私には田舎特有の空気感は理解できないが、そこで育てば私のような怪物は生まれなかったかもしれない。
彼女は母親を小学生の時に病気で亡くしていた。それからは祖母が母代わりだったと言った。祖母のことを話す時の亀島の声は、他のどこよりも柔らかかった。声のトーンが変わる瞬間に、人間の本質が出る。
バイト先のファミレスでスカウトされたこと。最初は断ったが、祖母が行ってみなさいと言ったこと。それでこの世界に入ったこと。ドラマの1話みたいなエピソード。
大学院に進んだのは、女優だけにはなりたくなかったからだと言った。何かが崩れた時に、ただの人でいられる足場がほしかったと言った。23歳にしてはずいぶん現実的な自己保存の仕方だと思ったが、言わなかった。その言葉の裏に、何度か崩れかけた経験があることを私は読んだ。
話を聞けば聞くほど、彼女と私の遍歴はあまりに違いすぎる。彼女が入念に育てられたネモフィラならば、私は犬のマーキングで育ったぺんぺん草。だが、形成された要素は似通っている。そして、まだまだ距離は遠いが同じ芸能界の舞台にいる。おかしな話だ。笑っちまう。
社会の淀みを存分に利用してきたダーティーな人間と、人の暖かさを十分に享受して育った清純な人間。バックグラウンドを知れば知るほど、後者を好きになるのは人間として当然の性だろう。だが、善い人間が報われるのは昔話だけで結構だ。そう思うことにした。そう思わないとやってらんない。モヤモヤを怒りに近い感情で塗りつぶす。私の常套手段だ。