俳句・短歌 歌集 四季 2021.04.13 歌集「忘らえなくに」より三首 歌集 忘らえなくに 【第36回】 松下 正樹 四季がある日本は移ろいやすいのだろうか。 行き交う人々の心や街の景色は千変万化で、過去はさらに記憶の彼方へ押しやられてしまっているかのよう。 だが、南の島々には、あの戦争を経ても変わらぬ日本の心が残されていた。 過去と現在、時間の結び目を探しながら、日本古来の清き明き心を見つける旅の歌短歌集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 汚よごされしことなき南島みなみじまの砂浜は 眼めに痛いたきまでまぶしかりけり あやまたず伝つたへる漢字の力ちからゆゑ 民族たみをたばねてあますことなき さまざまに民族たみの言葉は違たがふとも 漢字に拠よりて治おさめられたり
小説 『恋愛配達』 【第15回】 氷満 圭一郎 配達票にサインすると、彼女は思案するように僕の顔を見つめ「じゃあ寄ってく?」と… 「本業は酒屋で、宅配便はバイトです。ところでさ」ぼくはたまらず差し挟まずにはいられない。「さっきからなんなの、どっち、どっちって?」「だってあなた、ドッチ君だもん」「何、ドッチ君て?」すると瞳子さんは、ぼくの胸に付いている名札を指差した。これは配達者が何者であるのか知らせるために、運送会社から貸与されているものだ。ぼくの名前は以前病室で宴会を開いた時に教えていたはずだが、漢字までは教えていない。…
小説 『巨大鯨の水飛沫 』 【第2回】 喜田村 星澄 おばあちゃんがシロナガスクジラはいつ帰ってくるのかとしきりに聞いてきて… 「お母さん、お世話になります」お父さんがおばあちゃんに喋りかけた。何やら大人たちが喋り始めたとき、私は懐かしく部屋を見てまわる。そうしたら、そこに雑誌の切り抜きと思われる鯨の写真が、その雑さや粗さのままに貼られているのを見つけた。お母さんの声がふと耳に入る。「かあさん、この鯨は?」(鯨?)おばあちゃんに鯨なんて、全く縁がないように思う。おじいちゃんが漁師だったわけではない。建築関係に勤めていたと…