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「第三章 古代からの使者」より三経義疏(さんきょうぎしょ)の謎

「わかりました。おそらく近いうちに行く用事ができると思いますので、聞いてみることにします。でも一つだけお尋ねしたいことがあります。刑事さんはどうしてこんないたずらかもしれないような事件にこだわっておられるのですか。もし犯人を見つけても、起訴はできないんでしょう」

松岡は考えていたらしく、しばらく黙っていたが、やがてぼそりとした声でいった。

「これは他言しないでいただけますか。あなただから話しますが、大学に行ったとき、受付の人は、警察が来ても中に入れるなと、前もっていわれていたような感じだったんです。そして帰ってから課長に相談すると、もう大学には行くなと、すぐいわれました。どこかからそういう指示が出ているような気がします。わたしはこんなことが大嫌いでしてね」

「松岡さんって、熱血漢なんですね」沙也香は彼のストレートな人柄を見た思いがした。

「いやいや、そんなたいそうなものじゃなくて、刑事デカ根性というやつですよ。誰か悪いやつが都合の悪いことを隠したがっていると、そいつを暴きたくてしかたがなくなるというげすな性分です。あまり褒められたもんじゃありません」

「わたしもこんな仕事をしていますので、お気持ちはよくわかりますわ。こんど大学に行ったとき、聞いてみます。不審者を見たという人の名前を教えていただけますか?」

沙也香は電話を切るとソファーに腰を下ろし、考え込んだ。

おそらく松岡刑事が漠然と想像しているように、この一見単純に見える交通事故死の裏には、大がかりな背景が存在するに違いない。

刑事が大学内での捜査を拒否されたように、沙也香の手元には大事なページを破り取られたノートがある。一連の出来事を考えてみると、一人や二人でできることではない。なにか大きなバックが潜んでいるような気がする。

そう考えた瞬間、背筋がぞっとするような緊張感が走ったが、その想いが逆に彼女の心に新たな火をつけた。ここまできたら、教授が依頼しようとした仕事を必ずやり遂げてみせる─ と改めて決意を固めなおしたとき、ふいに教授の言葉が頭の中に蘇ってきた。