【関連記事】「出て行け=行かないで」では、数式が成立しない。

こわれもの修理屋さん

「ぼうや、ぼうや。起きられるかい?」

「う~ん」

ぐっすり眠っていた男の子が目を覚ますと、

「さあ。ミニカーの修理が終わったぞ。足りないパーツは、木で作ってみた」

「ウァ! 木のパーツ、すごくかっこいい! 修理屋さん、どうもありがとう!」

男の子は、ポケットに手をゴソゴソと入れコインを出しました。

「ぼく、これだけしか持っていないんだけど……修理代、足りますか?」

「おっと! 言い忘れていたよ。修理代なんぞはいらんよ。そのコインは何かのために大事にとっておくといい」

男の子は「えーでも〜」と言いましたが、修理屋さんはその背中を優しく押しながら言います。

「ほれ。お母さんが心配しとるかも知れんぞ。暗くならんうちに丘を下りなさい」

二人は外へと出ました。

「また遊びにおいで」修理屋さんが声をかけると、男の子は、笑顔で手を振りました。

見上げると、うっすらとした月。修理屋さんは、お気に入りの食事を済ませ、足取り軽く屋根裏部屋へと戻ってゆきます。今夜もきれいな星空が広がっていました。修理屋さんは、どこまでも広がる宇宙へと想いをせながら眠りにつきます。

ある日、夕焼けが広がってくる頃、トンと一回だけドアを叩く音がしたような気がしました。

「おぉ? もうすぐ店じまいの時間だが……気のせいか?」

そう言いながらドアを開けてみます。するとそこには、少女が立っていました。足元を見ると、はだしです。修理屋さんは、少女がとっさに家を飛び出して来たんだと思いました。

いつもなら店を閉める時間でしたが、少女の様子を見ると、閉めることなどできません。

「どうぞ。お入りなさい。どうしたんかね? あなたのこわれものは、よほど早く修理せんといけんものじゃろ? さぁ、見せて下さいな」

少女は何も言わず、困った顔をしています……少女はこわれものなど一つも持って来てはいなかったのです。静かな時間が続いた後、修理屋さんがゆっくりと話しかけます。

「まぁ。せっかく来たんだから、ひとまずソファヘどうぞ。ちょうどお茶を飲もうと思っていたので一緒にひと息入れましょう」

修理屋さんは奥へと行き、お茶の準備をしながら、少女のこわれものは何だろうと考えていました。

「お茶が入りましたよ。さぁ、どうぞ」

温かいお茶を出すと少女は両手でカップを持ち、まるで自分自身を温めるように、ひと口ずつゆっくりと飲みました。

「温かくておいしい。修理屋さん、ありがとう」

と言った少女の目からは、大粒おおつぶの涙がポロポロとこぼれ出しました。今まで、どれ程の涙をがまんしていたのだろうかとびっくりするくらいポロポロと。

「何か……あったのかな?」

修理屋さんが声をかけると、少女は苦しそうに話し始めます。

「私……お母さんが一番大切にしていた花びんを、わざと割って……家をとび出してきたの……」

バラバラに割れてしまった花びんと同じように、少女の心もバラバラにこわれてしまったのだということが、手に取るように伝わってきました。少女はお母さんの言う通りにやってきたけれど苦しくなって、とっさに花びんを割って飛び出して来たということを話してくれました。

「……あなたのこわれものは、心だったのですね……」

修理屋さんのその言葉に、少女はハッとして顔を上げます。