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雇用関係

「契約期間は無期限、どちらかが契約解除を申し出るまでだ。定時の出勤はないが、わたしが指示するときにはいかなる場合でも対応すること。そして肝心の仕事だが、芹生には推敲(すいこう)担当になってもらう」

「推敲担当?」

「そうだ。推敲だ。要するに、わたしの意図を汲んで作品の芸術性を高めるため、君の『芸術性へのこだわり』とやらを活かしてもらいたい」

芸術性へのこだわりとやら、とは何だ! とどなりたくなる気持ちを抑えつけた。好条件の前でプライドを殺す自分を嫌悪した。

「さあ、条件に納得したらこの同意欄にサインをしてくれ」

もはや受け入れる以外に選択肢はない。言われるとおりにサインをした。一呼吸置いて川島が言った。

「感謝の言葉はないのかい」

「感謝? ああ、その」

声が出ない。

「そうさ、感謝さ。わたしは窮地に立たされている旧友を救う救世主ではないのかい。どんな世界だって困っているときに救いの手を差し伸べられたら、一言でも御礼を言うのが礼儀だろ。それとも、こんな条件で稼げる仕事が他にあるのか?」

冷静になれば、川島の言葉は至極当然だった。確かに、この仕事で百万の給料なんてあり得ない条件だ。大学時代からこれまでの経緯、今の両者の置かれた立場、そして何より文学観の決定的な違い。

川島を眼前にして自分を見失っていた。

「川島。ありがとう」

ようやくのことで言葉を引っ張り出し、頭を下げた。彼はため息をつき、わざとらしく困った顔をした。