織田は人生の最後に、この6人で新たな残りの人生をつくってみようと、とんでもない思いを抱いた。
そして真面目に6人が集まる方法を考えた。
ただストレートに、宇宙に行きたいからとか、永遠の命に興味があるからとかではつまらない。
そうだ、全快祝いするから来てくれと案内状を出すことにしよう。
内容は簡潔に「3月27日桜の日、私の全快祝いをしますから、皆さん11時にお集まりください。昼食をご用意してお待ちしています」とだけ書かれていた。
5人は、織田からの祝いの会の誘いにやってきた。
織田の自宅の広々とした庭には、温暖化により少し早めの大きな枝垂れ桜が、満開に咲き誇り、ホテルから出張パーティーのケータリングに来たコックが料理を準備している。白いドレスを着た5名のコンパニオンが入り口で5人を待っている。
織田は、孫娘の友達の若いお嬢さん2名にバイオリン演奏を頼んでいた。
このバイオリン弾きのお嬢さんは白のロングドレスにピンクの絹のショールを風になびかせて、音合わせをしていた。
最初に現れたのは堀内と伊藤である。
2人は織田が好きな赤ワインを手にして、「織田さん全快おめでとうございます。後遺症も無く良かったですね。酒なんかお持ちしましたが、飲んでもいいのですかね」と、言いながら織田に差し出した。
「ありがとうございます。酒は百薬の長と言いますし、特にワインは血管にいいと聞いていますから、私にとっては上等の薬みたいなものですよ」と、ほほ笑みながら上機嫌で受け取った。
次に星野がタクシーで到着した。
「こんにちは、お招きありがとうございます。昨日までハワイの観測所に行っていまして、先ほど成田に着きました。ハワイのお土産と思ったのですが、大したものがなく手ぶらで申し訳ありません。ホテルの前でゴディバのチョコを売っていましたから、酒のつまみにと持ってきました。あぁー、ごめんなさい、病気回復のお祝いを言わなければいけなかった。全快おめでとうございます」と、言って金色の大きな箱を差し出した。
「ほぉー、ゴディバですか、ありがとうございます。ワインのつまみにはチョコがいいですね」と、言いながらテーブルに並べた。
最後に本多と中本が病院の秘書の運転する車で玄関に入ってきた。
本多の手には一抱えもある大きな花束が抱えられている。
織田が、「本多先生その節はお世話になりました。先生のおかげでこのような会を開くことができました。ささやかですがお楽しみください」と言いながら、2人を中庭に招き入れた。
開宴にあたって織田が口を開いた。
「皆さん今日はお忙しい中、私の全快祝いにお越しくださいまして誠にありがとうございます。ささやかですが桜を見ながらお楽しみください」
中庭には大きな楕円形のテーブルに白いテーブルクロスがかけられ、桜の下では孫娘の友達がバイオリンを弾いている。
堀内が持ってきたワインがワイングラスに注がれ、織田の挨拶に続いて乾杯が行なわれた。