もう、数百年も肌を触れ合ったことも無かった。遠い昔の残酷な記憶以外は……。
「天狐族の伝説に、数千年に一度伝説の巫女が現れて、この世界に希望の光を灯すというものがあります。その者であれば、あなたの呪縛を解いてくれるかも知れない」
「伝説の巫女ですか?」
「そう、伝説が本当ならば会ってみたい」
翌朝、陽炎の姫が旅立つ時、
「陽炎の姫様、お願いがあります」
と闇の巫女は、白狐の雪を連れてきた。
「私に?」
「白狐の雪を弟子にして上げてください。私はこの神社から出ることができない身でございます。いろいろと教えてあげてください。お願い致します」
と深々と頭を下げた。陽炎の姫は、しばらく考えていたが……。
「預かろう。百年、いやそれ以上掛かるかも知れないが……それでよいか?」
「はい。待っております。雪。頑張ってね!」
すでに、白狐に変化している陽炎の姫は、白狐の雪を連れると杜の奥に消えていった。いつまでもその後を見送る闇の巫女の顔には涙が流れていた。