弟
闇の巫女には人であった時の記憶は無い。この魔境神社の境内にも春になると境内の桜の花を見物に多くの人が訪れる。今は、廃神社同様であっても、人が訪れれば正直巫女も嬉しい。
ただ、多くの人は今この神社が、何のためにあるのかも知らない。やがて修行の旅から帰って来てくれるはずの白狐の雪、今はどこで何をしているのだろうかと思うことが多くなった。
人の身体をしているが、人でもない。だからと言って神でも魔界のものでもない。今の巫女にできる力は、さまよう人の魂を天界に導いたり、汚れた魂を魔界に献上したり、魑魅魍魎の浄化ぐらいだ。
人の願いを叶えてあげることはできない。そういった意味で心苦しく思うことがある。それでも楽しい夢を見ることがある。名前も知らない男の子ではあるが、神社の境内で巫女と遊んでいる。
夢は不思議なもので、日没になるとその男の子は現れる。そして日が昇る前に杜に帰って行く。巫女も昼間は寝ていて、夜になると起きている。
ある日の夜、男の子が、杜の外に行こうと誘う。巫女がこの境内から出ることはできないと断ると、男の子は悲しそうな目をした。
その夢を見てから数日経ったある日の夜。一人の少年が神社に現れた。
※本記事は、2020年12月刊行の書籍『眷属の姫』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。
人物紹介
・天狐 陽姫(ようひめ) 狐眷属界最高位天狐族の姫。
・天狐 月姫(つきひめ) 狐眷属界最高位天狐族・陽姫の双子の妹。一時(いっとき)、策略で魔界の妖狐一族にいた。その時に得た力と天性の天狐族の力を合わせ持つ。別名・夜神様。
・陽炎の姫(かげろうのひめ) 狐眷属界陽炎族に所属する。伏見稲荷の主様直属の特殊部隊に所属する。守りのエキスパート。心部に入り込んだ穢れを自ら心部に入り浄化することができる。元は人だった。
・魔境乃の姫(まきょうのひめ) 現世と魔界との魔境門を管理する門番。立場は中立であるが、その姫の力量により左右される。全国には、十数名の魔境乃姫がいる。
・樹海の姫(じゅかいのひめ) 霊峰富士の裾野に広がる樹海にある魔境門の門番。魔境乃姫の中でも特異の力を持っている。月姫とは深い関わりがある。
・龍神稲荷神社(りゅうじんいなりじんじゃ) 平安時代創建の神社。巫女・雪が贄となった、龍神湖の湖畔の高台にあり、遥か霊峰富士を望む場所に鎮座している。
・巫女・依姫(よりひめ)伝説の巫女・雪の生まれ変わりと言われる現代の最強の巫女。
・巫女・依生(いな) 依姫の娘。未来を予知することができる。
・巫女・天月(あづき)依生の娘。祖母が依姫。最強の力と人柄からか、眷属の垣根を超え、さまざまな眷属から厚い信頼がある。天月にひとたび危機が訪れると、この世界のすべての眷属が集結するとされる。
・葉月(はづき)天月の娘。父親は反転世界の住人。力は未知数。