雇用関係
「運命」という言葉は魔法の呪文だ。予期せぬ受け入れ難い不幸に直面した人間は、
何度かこの言葉を唱えるだけで諦観、受容という悟りを開くことができる。
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川島は、平河町の超高級マンションのペントハウスに自宅兼オフィスを構えている。都内でも有数の一等地だ。作家の仕事場というイメージからはかけ離れている。川島とは二年ぶりになるが、「再会」という言葉をこれほど呪ったことはなかった。まさに勝ち組と負け組のご対面。
周囲を睥睨(へいげい)するように聳え立つ建造物のエントランスから、幾重ものセキュリティをくぐり抜けてようやく辿り着いた。シックな基調のドアの無機的なインターフォンを押すと、若い女の声で応答があり、ドアが両開きに開いた。
「あっ、あなたは」
「芹生さん、お久しぶりです。西脇です。覚えていますか?」
葭葉出版の西脇美和だった。彼女は愛澤の担当者なので、ここにいても不思議はない。
「ええ、もちろんです」
「どうぞ中へ。愛澤先生がお待ちです」
促されて足を踏み入れると、靴ショップかと見紛う玄関と、外国映画でしかお目にかかれないような吹き抜けホールがある。艶やかに磨き上げられた廊下を進みリビングに入ると、まさにパノラマという言葉が相応しく、窓から都心の眺望が飛び込んでくる。バスケットボールができそうなくらい高い天井から釣り下がっているシャンデリアを見上げると、川島に見下ろされているような気がして、とたんに気おくれがした。でも、そうは言っていられない。今日は覚悟を決めてきたのだから。