その日の夕刻七時に池袋駅の、いつもの待ち合わせ場所の改札口で美沙と翔一郎は会い、しばらく歩いて、気に入りのパブに入った。
「悪かった、昨日は。あまりに突然だったよね」
と、翔一郎が切り出した。
「わかっていたわ。三井君がフランクフルトに赴任するって聞いた時の貴方の顔は、ようし俺も行くぞって顔をしていたもの」
「さすが美沙ちゃん」
とすぐにおどけるので
「調子に乗らないでね、だからって、いきなりお義母さんと同じ扱いはないわ」
「ごめんごめん、でもね、多分あの形の方がおふくろは簡単に承諾すると思ったんだよ」
「なるほどね、そこまで考えていたのなら許す、と言いたいけれど、もっと簡単に考えていたわよね」
美沙はビール一杯目で酔ってしまうので、気持ちは楽になっていたようだ。