駐輪場に自転車を預け、地下の駅に通じる階段の入り口で沢波と別れた。階段を踏みしめても痛みは気にならない。重い荷物は変わらないが、気分はずいぶん軽くなった。数分電車を待ち、乗り込むときにはもう何事もなかったように歩くことができた。

(なんだか不思議な人だな)

自宅の私の部屋で、手当してもらった足をじっくりと見てみる。ついさっきのことだから彼の動きまで鮮明に思い出すことができる。ドラッグストアの灯りの下で、通行人がちらりちらりと視線を向ける。

そんな中で優しく声をかけてくれながら、すばやく手を動かしていた。なのに絆創膏のしわ一つなく、とても丁寧な仕上がりだ。

(のんびりしてる感じなのにな)

大きな絆創膏の上から彼が手のひらをピタッと当てると、じーっと温かくなってきて痛みが引いていく。思い出すだけで、まるで可愛い女の子のように頬が熱を帯びてくる。

自転車置き場で助けてもらってからは終始彼のペースだった。過去の自分を思うと不思議な体験だ。というのも、どんなときでも自分が引っ張っていくことこそあれ、こうして人に付いて行くようなことはなかったからだ。

それも私からはひと言も言わずに。今落ち着いて振り返っても不満一つなく、感謝しかない。感謝されるんじゃなくて、私が彼に感謝しているんだ……。ホント不思議。

「ありがとう、嬉しかった」って感謝するのも、いい気分だ。ただ髪なんか跳ねていて、ちょっとでいいから梳かしてくれば見られるようになるのに、とまるで関係ないダメ出しをする自分もいる。

(明日、絶対お礼をしよう!)

思い返すとまた頬が緩んできた。なんだか恥ずかしくもなってくる。もう一度絆創膏をさすってからすっぽりと頭まで布団に潜り込んだ。