薬が効いたのか、次の外来には忘れずに自立支援医療制度の申込用紙をKさんは持ってきました。
その後Kさんは、ネットでの衝動買いもなくなり、落ち着いた生活ができるようになりました。自立支援医療診断書を提出後に、投薬を再開したところ、「まず頭の整理ができ、楽観的になれました。
物事の優先順位がつけられるようになり、家事ができるようになりました。できなくても、『まっ、いいか』、とこだわって深く考えなくなりました。携帯電話の機能を利用して外来受診の1時間前にはアラームを鳴らすようにしました。夜もよく眠れるようになりました」と喜びの表情で薬の効果を話してくれました。
父親や母親が、お子さんと一緒に薬で治療することで、夫婦ゲンカや無駄にお子さんにあたることも減り、お子さんの症状も良くなるということは親子並行治療ということで第二章でも触れました。何よりも、両親そろってお子さんにしっかりとした支援ができるようになります。
Kさんの場合は、無駄遣いをしなくなったことで、お子さんのための貯金も増えたようですし、それまではイライラしてすぐ怒鳴っていたお子さんの行動にも、優しく接することができるようになりました。また、家庭環境が整うことで、お子さんの症状も改善されやすくなることももちろん大切ですが、発達障がいを治療することによって、「忘れ物が少なくなる」「近所の人とスムーズに話せるようになった」というようなこれまで生活していく中で親御さん自身がなかなか治せなかったことが改善に向かうことも十分に考えられるのです。
さらに言えば、今ここで発達障がいを治すことが、ずっと先の未来を明るく照らします。片方の親御さんが、特に母親がADHDの症状を抱えたままだと、お子さんの診察日を忘れ、薬も足りなくなり、それを見ているお子さんも「そんな適当な感じでいいのか」といい加減に物事をすませることに慣れてしまうという危険性もあります。
実際、そのようなケースも少なくありません。そして、お子さんが親になっても、物事をいい加減なまま片づけてしまい、それを見てまたそのお子さんが真似して……となってしまう危険性も考えられます。これが遺伝による負の連鎖です。お子さんは親御さんの背中を見て育つのです。お子さんの未来を変えるためにも親御さんも治療を考えてみてはいかがでしょうか?