はじめに

「もう私どうしたらいいのかわからなくって……」

先日、涙を浮かべて私のクリニックにやってきた30代くらいの主婦のAさん。目も伏し目がちで、げっそりと疲れきった様子です。彼女には8歳のお子さんがいます。隣の席のお子さんにすぐちょっかいを出したり、突然、授業中に奇声をあげたりすることがあり、そのたびに、担任や他の子の親から電話がかかってくるそうです。

いくら丁寧に注意しても、大きな声を出して叱っても、行動が改善される気配が見えません。保健所にも相談したそうですが、「もう少し様子を見ましょう」と言われるだけで、なんの指示も受けなかったと言います。担任もお子さんを持て余し気味で、「家庭でしっかり躾(しつけ)をしてください」とAさんにきつくあたるだけで、なんの対策も施してくれません。

誰も助けてくれない……。どうしたらいいのかと途方にくれていた時に、私のクリニックの噂を聞いたそうです。

診断したところ、お子さんは自閉スペクトラム症とADHDが併存している状態でした。いわゆる発達障がいのあるお子さんだったのです。症状の説明をし、これからのことについて説明をすると、「ほっとしました」とそれまでが嘘のように晴れやかな表情になりました。

今までは、一人で正体の見えないものに立ち向かっている心境だったそうです。