イラッとして子どもに手を上げる前に
育児が自分の持つキャパシティの限界を超えてしまったため育児ノイローゼになったり、お子さんを虐待したりする親御さんが増えているといいます。「児童虐待の防止等に関する政策評価」総務省、平成24年1月発表によると、児童相談所(県)および市町村における虐待対応件数は、平成21年度の43062件(同年度の44211件から宮城県、福島県の児童相談所および仙台市の件数を除いたもの)から22年度は55154件(宮城県、福島県の児童相談所および仙台市の件数を除いたもの。対前年度比28.1%増)に急増しています。
この幼児虐待や育児ノイローゼにも、発達障がいが関わっていることがあります。
茨城県内にある東京都の児童養護施設が、平成21年12月から、東京都の事業である専門機能強化型児童養護施設に認定されました。そこでは、小児科医や精神科医が毎月定期的に来園して、スタッフや親御さんへの指導やお子さんの問題行動に対する相談を行っています。
私はその施設内において、入所児童のADHDに関する評価を行い検討してみました。
施設に入所している児童43名中、スタッフにADHDと評価されたのは15名(35%)で、入所理由別を見てみると、ADHDと評価された15名のうち、9名(60%)が虐待を主訴に入所していました。そして43名のうち担任にも評価され、医学的にADHDと診断できたのは6名(14%)でした。
2003年に厚生労働省が行った「児童養護施設入所児童等調査」の1.9%、2008年の同省の「社会的養護施設に関する実態調査」の10.2%、2008年の栃木県の中央児童相談所における調査の2.3%に比べるとはるかに高い割合でした。
このような差が出たのには、厚生労働省や中央児童相談所の調査が全国の施設対象による平均であったり、医療にかかっている児童数だけを事務的にカウントしていたりするのに対し、今回は、一つの児童養護施設内で調査したことや医療受診の有無に拘わらず施設内全員に対して「ADHD RS-Ⅳ」を用いて小児科医が判定したことによるところが大きいと考えます。
医学的にADHDと診断された6名はもちろん、施設のスタッフによって陽性項目が6つ以上認められた15名に関しては、スタッフや保護者などと話し合い、診断・治療のために医療機関につなげる必要があると考えられました。
施設におけるスタッフのADHD評価の検討を行ったところ、スタッフ間において評価差が見られました。まだ施設に染まっていない新人スタッフほど評価が厳しかったのです。
今回の調査では、ADHDの中でも不注意型ADHDが多く見られました。
目に見えにくい不注意型ADHDを早期発見・治療することで、施設入所児に対するより適切な支援を検討することができ、ひいては虐待防止や施設入所の抑制にもつながると考えられます。