奉公

若夫婦の家はあばら家だった。屋根は一応藁わらで葺いてはあるが、半分崩れかけており、内は土間に続く板の間、ゴザ敷きの寝間があるだけだった。粗末な家だったが、それでも土間はよく掃き清められ、板の間は塵一つなくきれいに磨かれていた。

結衣は衝立を目隠しに、寝間で木綿の野良着を借りて着替えた。女房が椀に白湯を注ぎ、差し出した。

「誠に申しわけもねえです。なんのおもてなしもできねえで。でもこの水はハケの湧水でとても柔らかくてうまいんです」

夫が頭を下げた。娘はひもじいのか、指をしゃぶりながら母の膝に座っていた。

吾作は言っていいものか迷ったが、結衣に向かって独り言のようにつぶやいた。

「百姓はこんな暮らしをして米を作っているんです。特に小作は田畑を持ってねえから、貧しい暮らしから抜け出せず丁寧に米を作り、少しでも取れ高を上げて自分たちの取り分を上げていくしかねえんです。こうした百姓たちの努力のお蔭で、みんなの暮らしがなり立っているんですよ」

結衣は黙ってうつむいていた。知らない世界に迷い込んだような孤独感を覚えていた。

(私は世間のことを何も知らない。いろんな身分の人たちがいて、それぞれが自分の役割をしっかり果たすことで、世の中が滞りなく動いている。貧しくともみんな不満も言わずたくましく生きている……)

木綿の単衣の着物は洗いざらしで、ごわごわとして、絹の着物に比べたら着心地は悪かったが袖を落とし、丈を短くして機能性を持たせてあるので軽快に動けて心地よかった。

帰り道、結衣は黙りこくって歩いた。吾作も伊助も声を掛けてこなかった。屋敷に帰ると、ひどい身なりに驚く九右衛門を尻目に、結衣は自室に籠った。おさきが声を掛けても返答もしなかった。

しばらくたってから、

「おさき、おさき! 今すぐ伊助を呼んでちょうだい」