奉公
年が替わり、村の田んぼに稲穂が立ちはじめる頃になった。吾作が今年の稲の出来具合を検分するために身支度をしていると、九右衛門に呼ばれた。結衣を一緒に連れて行き、いろいろ教えてやってくれと言ってきたのだ。
吾作は山林の検分のとき、散々な目に遭わされたので理由をつけて断ろうと思ったが、九右衛門の言いつけならば仕方ないと、連れて行くことにした。事故や怪我したときのことを考えて若い衆をつけてくれるよう願い、伊助が同行することになった。
九右衛門の所有する稲田は五十町歩もあり、全て検分できるはずもなく、あらかじめ小作人から出来具合を報告させた上で検分する場所を選んである。中の田、というところで畦に立って吾作が結衣に説明をはじめた。
「お嬢様、今の時期まだ稲は青立ちですが、こうしてもみ殻を触って実があるか、重いか、穂が長いか、虫や病気が発生してないかをよく見て今年の取れ高を予測するんです。まもなく田から水を抜きますが、このまま大風もなく天気が続いてくれれば今年は豊作です」
「あっ、そうなの。私にはよくわからないわ。お父様はなんで私に田の見回りなんかさせるのかしら?」
「小作が手塩にかけて育てた稲なんです。お嬢様が穂を手に取って出来具合をご覧になられることが、百姓たちの励みにもなるんでございますよ」
「そうかしら。検分は吾作や伊助がやればいいと思うけど」
吾作はまたしても渋面をつくった。