放課後、僕は学内の喫茶店で内村としゃべり込んでいた。さっきの件で彼はどうも僕に興味を持ったようだ。
「『さわなみ』はちょっと言いにくいから、沢ちゃんでいくわ」
「そりゃかまんけど」
そんなところから昔は空手をやっていたという話、趣味の音楽の話、クラスの女の子の話、どの子が好み──結局僕はほとんど聞き役だったが、これほど楽しそうに人と話ができる内村がうらやましかった。今の僕には難しそうだ。
しばらくして「もうそろそろ閉めますよ」と白い調理服を着た人に声をかけられた。
まだしゃべり足りなさそうな内村と校舎の玄関口で別れた頃にはあたりはもう薄暗く、東の空には星が一つ二つ見えていた。校舎がその影を落とす白い線で区切っただけの自転車置き場は、この時間にはもう閑散としている、かと思えばさにあらず、研究だか部活だかわからないが、空席二割の状態だ。
出口近くに止めていた僕が開錠しようと屈んだときに、奥の方からガチャガチャガチャガチャ…と不穏な音が聞こえてきた。なんだ、と思う間もなく、隣の自転車が僕によりかかる。とっさに左手で掴み、押し返す。しかし数台の重さとその勢いには勝てず、やばいと思って手を放し後ろに飛び逃げると、巻き込まれた自分の自転車の数台先でその流れは止まった。
(あらら……)
ここまで見事なドミノ倒しもなかなかお目にかかれない。フーっと息を吐き、左奥を見る。十五台くらいは倒れているだろうか、薄暗くてよく見えない。そして自分の自転車だけ引き出そうにも、何台もの下になっているので難しそうだ。仕方なく奥に歩いて行った。
※本記事は、2020年11月刊行の書籍『桜舞う春に、きみと歩く』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。
★邪気指数、新陳代謝指数、正気指数
漢方の立場で見た、主人公沢波俊樹の体調を示します。本来、漢方にはこんな指数はありませんが、これに近いことをもっと細かく考えながら対処します。これらの変化は人によって異なります。
●邪気指数
体の中に溜まった不要なもの(邪気)の量を示す指数です。邪気は誰の体の中にもあります。食事の質や偏り、嗜好品、食べる時間などで変化しやすく、新陳代謝指数が下がり排出が悪くなることでも上昇します。邪気がかゆみの元にもなることがあります。ここでは50~150を正常範囲とします。150を超えると体調を崩しやすくなります。ただし、正気指数が高い方は、邪気指数が高くなっても体調を維持することができます。
●新陳代謝指数
体の中の、良い物(正気)、悪い物(邪気)がどれだけスムーズに動いているかを示す指数です。通常人が生きていく中で、良い物(新)を取り入れて、いらないもの(陳)を排出しています。それがスムーズに動いていること(代謝)が大切です。飲食の消化吸収、大小便での排出、血流、発汗などトータルの指数とします。運動不足やストレスなどで低下します。ここでは70~100を正常範囲とします。新陳代謝指数が下がると邪気指数が上がりやすくなり、下がっているときには正気指数も下がっていることが多くなります。
●正気指
数
体の元気(エネルギー≒正気)の指数です。バランスの良い飲食で満たされ、ほど良い休息をとることで作られます。逆にストレスや過労で低下します。正気が少なくなると、体のだるさや意欲の低下がみられ、免疫をコントロールする力が弱り、かゆみを抑えられなくなり、症状が悪化します。ここでは70~100を正常範囲とします。正気指数が高いと新陳代謝指数は上がりやすく、邪気指数が少々高くても生活に支障はありません。