第三章古代からの使者
その日から沙也香は持ち帰った資料を読むことに没頭した。最初に読んだのは、あの覚え書きのノートだ。
聖徳太子に関する思考過程を記録したノートの冒頭には、まずさまざまな謎が列挙されていた。続いてそれらの謎が起こった原因を究明するための思考方法─つまり謎を解明するためにはなにが必要か、その手段と方法についての検討などが書かれている。
沙也香は夢中になって読み進めていった。教授はあらゆる角度から思考を重ねた結果、最終的な結論として、「聖徳太子の謎」というものは本来起きるはずがないこと、しかしそれが現実に発生しているということは、『日本書紀』の編集者がなにかを隠すために「聖徳太子」という人物をねつ造して造作記事を書き、それによって発生した矛盾が引き起こした現象ではないかと推理していた。したがって、それらの謎を解くためには『日本書紀』の編集者がなにを隠そうとしたのかを突き止めることが必須条件だ、と教授は考えたようだ。