犯行の流れが見えてきた
「心当たりといわれても……わたし、高槻教授の個人的なことについてはなにも知りませんもの。だって、電話で一度話したことがあるだけなんですよ。それもほんの短い電話ですから。それは奥さまにでも聞かれたほうがいいんじゃありません?」
「そうですね。ではそうしましょう。ただあなたのところに来るのを邪魔しようとしたのなら、あなたになにか心当たりがないか確かめなければならなかったものですから」
「もしそれが目的だったとすれば、車の冷却水が抜かれたのは、わたしのところに来る直前だったということですか」
「じつはそこがまた微妙なところでしてね。あの事故のあと、車をメーカーの修理工場へ持ち込んで調べてもらったんですが、あの冷却水の量だと五分や十分くらいは運転しても問題ないということでした。しかし十五分か二十分運転すると、オーバーヒートするという結果が出たそうです。実際に高槻さんは、大学の駐車場を出て二十分くらい走ったあたりでエンストを起こしています」
「すると、五分や十分走っても、異常を感じることはなかったということですか」
「そうなんですよ。高槻さんの宿舎は、いつも止めていた駐車場から車で五、六分くらいのところですから、あの状態で通勤していても異常は起きなかったはずです」
「ではかなり前から抜かれていた可能性もあるわけですね」
「そういうことです。そこで以前うかがったことですが、もう一度確認させてください。高槻さんからこちらに来るという電話があったのは、事故の前日だったということでしたね」
「そうです」
「そしてさらにその前日、事故の二日前ですが、松風出版社に高槻さんが電話してきて、あなたの連絡先を尋ねた。そして沢田さんという社員が連絡先を教えてもいいかと聞いてきたので、あなたは教えてもいいと答えた、と聞いていますが、間違いないでしょうか」
「そうです。それで間違いありません」
「そうしますとですね、高槻さんは事故の二日前には、すでにこちらにうかがうつもりでいたと思われます。するとそれを知っていた誰かが、二日前の時点で冷却水を抜いたということも考えなければなりません」
「ああ、なるほど。たしかにそういうことも考えられますね」