タペストリーに見とれていると、背後から聞き覚えのある声がかかって二人は慌てて後ろを振り向いた。いつのまに来ていたのか、コジモ・エステだった。
「宗像さん、フィレンツェまでようこそ。ロンドンでは大変失礼いたしました。必ずやまたお会いできると思っておりました。ややっ……これは……ロイドのお嬢さまではございませんか? どうしてまた、こちらに? それに、宗像さんとご一緒とは?」
コジモは信じがたい人物をそこに見たというように、硬い表情になって大きく仰け反った。おまけに頬がぴくぴくと歪んでいる。エリザベスは身を硬くして言った。
「どちらかでお目にかかりましたかしら、エステさんと?」
「ええ何度かは。最近ではお父上様のお葬式でお会いさせていただきました。もっとも、お取り込み中で気がつかれなかったとは思いますが。しかしエリザベス様が、なぜ、宗像さんとこちらへ?」
コジモは眉根を寄せながら何度も眼をしばたたかせていた。
「宗像さんとは、実際、説明できない不思議な縁に導かれてとしか申し上げられません。それより、今日はぜひともお聞きかせ願いたいことがございまして、こちらに寄らせていただきました」
固い決意を漲らせ、エリザベスの声は多少上ずっていた。
「どんなことでしょうかな? 私でお役に立てることで?」