そう言いながらも、一瞬のことだがコジモの顔に軽い不安が過ぎった。

「それは……ええ、私自身についてのこと、父エドワードについてのこと、そしてフェラーラという画家についてのことです!」

エリザベスはコジモを睨み付けるようにはっきりと言った。

「やぶからぼうにそう言われましても、いったい、何のことやら?」

不安が適中してコジモは目を一瞬大きく見張ったが、呆けたような顔をして、のらりくらりと返事をした。エリザベスはコジモの目をとらえて単刀直入に詰問した。

「エステさん、あなたはこれらの人たちをつなぐ複雑な関係を全て知る人のはずですよ!」
「なぜ、私のことを?  どうしてそう思われるのですかな?  残念ですが私には何のことやら全く分かりませんな」

コジモは強い動揺を押さえながら、しらを切った。

「そんなことはございませんでしょう。あなたは父の一番の親友だとか?  そうですか、お認めになりたくないのでしたら私から言いましょう。それは、私が……。私はエドワードの娘ではなく……本当は画家フェラーラの娘だということです!」
「何!  そ、そんな馬鹿なこと。冗談はやめてもらいたい!」

コジモは声を荒らげて否定したが、二つの目はいまにも飛び出さんばかりに膨れ、その顔は恐怖に引き攣って蒼白になった。