自分が画家ではないことに宗像は軽い口惜しさを覚えた。しかし絵は描けないが、この件が一段落したらぜひともエリザベスを撮ってみたいと感じ始めていた。
インパネにレイアウトされた時計はちょうど夕方の七時を指していた。《ギャラリー・エステ》のフィレンツェ本店は、サンタ・クローチェ地区の中心を占めるシニョリーア広場の西側に、中世に建てられた歴史的な建築を使って出店していた。
宗像が来ることは前もって店員に伝えられていたらしく、メルセデスを店の前に横付けすると、タキシードを着込んだマネジャーらしき男が近寄ってきた。車内から自分は宗像だと名乗ると、そこで車を降りるように促され、そのまま内部へと案内された。
一階は様々なインテリア・グッズと大型装飾品を並べたエリアのほかに土産物コーナーが、またその奥には、美術品のために特別展示ギャラリーが設けられている。建物のコーナーには、いかにも格式の高そうなリストランテが、広場側に面する間口のほぼ半分近くを占め、ヴェッキオ宮殿と向き合っている。
そしてその外側には青と白のテントが突き出て、オープン・カフェが広がっている。案内板には二階が絵画部門、三階が彫刻と工芸品と表示されている。