自身の出生に隠された真実を知るために、ある絵を追い続けているエリザベスと、それをサポートする日本人写真家・宗像。イギリスの高名な美術評論家・アンドレに会えることとなった宗像は、ロンドンのホテルでその老紳士と対面するのだった…。」
「アンドレさんとはいかがでしたか?」
離陸したBA560便の機中でエリザベスは待ちかねた思いで宗像に訊ねた。
「眼光鋭く、時代を見通す強固な目を持っている印象でした。さすがにアンドレさんは一時代を築いた評論家ですね。ご自分がフェラーラを見つけたんだと、少しばかり気負っておっしゃっていました。でも、エリザベスさんの電話が入るまでは全く忘れていたような存在だとも…。これまでは、フェラーラは彼にとって、もはや過去の画家だったのです」
「それで、何かお分かりになりましたか?」
「そうですね、先ず、フェラーラとロイドとの関係ですが。一九六六年ロイド新人賞審査時のこと、アンドレさんはあの絵と衝撃的な出会いをされた。そしてフェラーラの絵を初めて公に評価した。だから自分の一存でロイド出版に話を持ちかけて出版させたんだと言っていました。ロイドが最高だからと」
「何か不正な臭いなどは?」
「いえ、今回そのようなものは全く感じませんでしたね」
「他には何か?」
「フェラーラの奥さんのアンナさんですが。やはり絶世の美女だったと。それから、お嬢さんのことですが、彼は間違いなく一人だけだとも。ですから、アンドレさんは例の件については何もご存じなさそうです」
「そうですか…」
「しかし最後にアンドレさんはこうもおっしゃっていました。今の時代に共鳴して、ピエトロ・フェラーラの絵が近いうちに復活する兆候がありそうだとも」
「復活? 今、そういう時代?」