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フィウミチーノ空港でレンタカーを借り、アウストラーダのルートA1を北上した。両側にうねりながら連続する遮音壁に挟まれ、ヌメッとした一本の黒い道が、遥か彼方に限りなく延びている中、メルセデスはフィレンツェへ向かって疾走した。

これから起こることはまったく予想できない。それぞれの置かれた立場は違うが、宗像とエリザベスには不安と期待の入り混じった複雑な感情が錯綜していた。だから飛行機の中では必死に何かを考え、気難しい顔をして押し黙っていた二人だった。それが車に変わり、次々と変化しながら後方に消えていく動きの速い景色につられたのか、それともハンドルを小刻みに動かす動作がもたらした効果なのか、エリザベスが口を開いた。

「エステさんのところで真実が分かるというのは、果たして私にとってはどうなのか正直言って不安です。ここに来るべきではなかったのではなどと、ローマに向かう飛行機の中ではそればかりを、堂々巡りのように考えていました」

「それで…どのような結論が?」

「こんな方法で、重大な秘密を明らかにするなんて父は卑怯だと思いました。しかし、結局今後の対応を私に委ねてしまったのですから、真実を見極めなければという気持ちに」

「いずれにせよ、まず真実を知ろうと決心されただけでも大きなことです」

「なぜフェラーラが私をヴォーン家に引き渡したのでしょうか? 父と母、フェラーラ夫妻、そしてコジモ・エステの果たした役割とは?」

「私にとってはミステリアスな絵の謎に迫れればという心境なのですが、あなたは自分を取り巻く厳しい真実を見極めようとなさっている」

宗像はエリザベスを慮って言った。男勝りのドライビング・テクニックを駆使し、時速180キロメートルでメルセデスを疾走させるエリザベスの運転はかなりの腕前だった。

宗像が左を向くと、前方を凝視するエリザベスの彫の深い横顔が見えた。小さいピアスを煌めかせ、例のスポーティなサングラスを掛けながら、両手でハンドルを固く握り締める姿。その横顔はファム・ファタルの絵の主題にたびたび使われた構図と酷似していた。説明しがたい奇妙なこの二重感覚は、四十年前に描かれた絵の中の女が、今、絵から抜け出して車を運転しているかのようでもあった。