そう思っていた矢先、ぜんぜん人をおもしろがらない人が、あらわれた。

昼間、曹端嬪(ツァオたんぴん)に呼ばれて参上もせず、持ち場をはなれていた牛順廉(ニウシュンリエン)である。ようやく彼がもどって来たのは、午後になってからであった。

中肉中背、歳は、私よりもいくらか上であろう。銜(くわ)え莨(たばこ)である。

これまで一人で使っていた部屋に、とつぜん、見知らぬ同居人がやって来たというのに、驚きもしなければ、残念がりもしない。口元をゆるませることも、顔をしかめることもせず、表情ひとつ変えぬまま、莨の煙をくゆらせていた。

私が名のっても、めんどくさそうに手を振るだけで、出身地や、来し方をたずねることもない。根本的に、他人にたいして、関心がなさそうな御仁であった。どこへ行っていたのか、とたずねても、「いや、なに、野暮用でな」としか、こたえなかった。

察するに、彼は、内職をしていたのであろう。抜け目のない宦官は、空いた時間を利用して、小商いをし、小遣い銭を稼いでいるものだ。

「アンタ、炭を、まだ焚いてないな」
「え?」
「部屋に火をいれるのは、おれらの仕事だ。ついて来い」

建物の裏側にまわると、石炭と薪(まき)が積んであった。彼は鉄かごに火をおこし、石炭のかたまりをざらざらと入れた。

「寒い季節に、これを怠ると、めんどうなことになる。これからは、アンタが気をくばってくれ」
「わかりました」

牛順廉(ニウシュンリエン)のあとについて、各部屋をまわった。

「これでいい。じきに、主子(チュツ)様の部屋も、あったかくなるだろう」
彼は、火盆に手をかざした。