(4)
それから一刻ほど眠って、起きた。曹端嬪(ツァオたんぴん)のことが気になり、となりでいびきをかいている牛順廉(ニウシュンリエン)を、揺りうごかした。
「むにゃむにゃ……なんだ、いったい」
「主子(チュツ)様は?」
「おれに訊いたって、知らんよ。おれは下僕だ。主子様じゃない」
「宦官たるもの、主子より早く目覚めて、朝じたくをせねばならんのではないか?」
「心配せんでもええ。曹端嬪(ツァオたんぴん)は、大らかな方だ。徹夜した宦官が、多少の寝坊をしても、大目にみてくださる、ありがたい主人だ。アンタも聞いただろう、『部屋にもどって、やすみなさい』って言ってくださったのを。あのお方の言葉は、額面どおり、うけとっていい」
「そうは言っても……」
「とにかく、おれは、ねむいんだ、起こすな」
牛順廉(ニウシュンリエン)は、頭までふとんにくるまって、蓑虫(みのむし)をきめ込んでしまった。私は、むっくり起き上がり、袍子(パオツ)を着替え、掛子(クワツ)をひっかけて、寝室へと伺候した。
まだ、やすんでおられればいいが。どうか、夢のなかにいてくだされよ。
「あら、春吉(チュンジー)じゃないの」
楊金英(ヤンジンイン)であった。ほかに、若い女官がふたり、こちらをうかがっている。
「……静かだな。主子(チュツ)様は、まだ?」
「お目覚めになっていないわ」
「よかった。就任の翌日から、寝坊したかと思った」
胸をなで下ろすや、非難のいろに、あてられた。
「はやく火を入れてよ。寒いじゃないの。みんな文句を言ってたとこなのよ」