宮中での配属先が決まり、曹端嬪(ツァオたんぴん)付きとなった王暢(ワンチャン)。そこでの日々は刺激的でもあり、個性的な面々との出会いでもあった…。
(3)
すぐれた道士は不老長寿の術を身につけているというが、ほんとうに不死身なのかもしれない。
「いまや邵(シャオ)道士は国師であり、陶仲文(タオジョンウェン)師は、その衣鉢を継ぐお方だ。万歳爺(ワンスイイエ)は、永年、後継ぎがなかったのだが、先年、おふたりが後嗣誕生を祈願されたら、はたして、待望の皇子をさずかったこともある」
「へえ……」
「すぐ、みまかられてしまったがな。とにかく、万歳爺(ワンスイイエ)は、絶大な信頼を寄せておられる。曹端嬪(ツァオたんぴん)に、後嗣をさずかるよう祈禱をお願いしたのだが、国師はご高齢で、体調がわるくてな。その代理として、お越しくださったのだ」
「なるほど。そういうことでありましたか」
すっかり日も暮れて、あたり一面は漆黒の闇におおわれている。
「見よ、明かりだ。こちらに近づいて来るぞ」
師父が指さしたさきに、ちらちら灯籠が動いている。西一長街を、南からやって来る。
「たのもう」
見れば、仁寿宮(じんじゅきゅう)の宦官である。
「万歳爺(ワンスイイエ)は、こちらにおいでか。皇太后陛下が、皇上に御用である」
「例の一件であれば、皇上の命により、通すわけにはまいらぬ」
来訪者は、眉をつりあげた。