自身の出生に隠された真実を知るために、ある絵を追い続けているエリザベス。奇しくもポルトガルで彼女と出会い、その追跡劇に加勢することとなった宗像(むなかた)。二人は新たな手がかりを求め、ポルトガルからイタリア・フィレンツェへ向かう手配を進めるのだった…。

ロンドンを経由し、美術評論家アンドレに会えないか?

朝方の機器のトラブルは既に解決したようで、飛行機は飛び始めている旨の説明を受けた。宗像がエステさんとの予定が、明日夜七時以降になりそうだと告げると、エリザベスはポルトからの直行便はなさそうだと説明した。

「明日の夜だとしますと、時間がだいぶ空いてしまいますわね?」
「エリザベスさん、便さえあればロンドン経由でフィレンツェという手もありますよ」
「ロンドンへ?」

「ナショナル・ギャラリーの美術資料部で、フェラーラの画集を見せていただいたときからいくつかの疑問があるんです。できればあなたの御紹介で、ミッシェル・アンドレ氏にお会いさせていただくことは可能でしょうか? フェラーラの評論はいつも彼が書いていましたし。もしお会いできれば何か新たな事実が分かるかもしれませんので」

「私は……どうしたら?」
「そうですね。今回は私一人でお会いさせていただいた方が良いかもしれませんね」
「分かりました。まず、飛行機から決めましょう。それからアンドレ氏に連絡を」

チケット・カウンターに電話をかけると、次のようなブッキングが可能になった。

ポルト発十八時、ロンドン着二十時二十分。
翌日、ロンドン発十三時十分、ローマ着十六時三十分。

ということは、明日の午前中にロンドンで時間が少しとれる。その時間帯に首尾よくアンドレ氏に会えればいいのだが。そう計算している最中に宗像の電話が鳴り響いた。

ベン・プライス氏だ。コジモ・エステ氏が明日夜八時にフィレンツェの店でお待ちしているとの回答だった。